メーテルとヨーテル

なに、苓北の哲ちゃんが手に入れた中古漁船の名前だ。
今ついている名前を消して、新しく名前をいれてくれという。そして、キュウリをどさっと持ってきた。いつもながらの現物支給だ。
哲ちゃんは、キュウリとトマトをつくっている農家だ。同時に『苓北火電に反対する苓北町民の会』の事務局長でもある。
事務局長としての仕事が年に三回ある。三月の「頌徳祭」、七月の「天草環境会議」、それと十一月の「平釜祭」。その合間に、花火大会だの観月会だのがあって、そのどれにも派手な飲み会がくっつく。飲み会の料理は、漁師の田嶋さん夫妻が中心になってつくる。テーブルに並んだ季節の魚料理を見れば、都会から来た人は「こんな贅沢な」といって食べる前にため息をつく。これが30年、続いている。
今年も環境会議が近づいた。環境問題は、外から内へ向かいつつある、と思う。福島の原発事故以降、問われているのはわたしたち一人一人の生き方だ。

それで、船の名前の話だ。
メーテルはひらがな、カタカナ?」と、哲ちゃんに聞いた。
「そるが、漢字で書くと。目が輝くと書いて「メーテル」。農協に書類づくりば頼んだら「目輝」と書いた。これじゃ「メテル」としか読まん。目と輝のあいだに小さな「え」を入れてもらいたかと」
「ふうん。目ぇ輝ね」とおれ。
「今でもヨーテルがよかったかな、と思うとる。そうすれば、太平洋の洋に輝で、「洋輝」、小さな「え」はいらんじゃなかですか。

目の前に目ぇ輝と洋輝が踊りだしそうだ。