暗くなったから…


暗くなったから明かりを消して

 
 逆じゃないのか。
暗くなったら、明かりをつけるものだろう。
いわし油の入った行燈(あんどん)に火をつけるのだ。
人の影が障子に映って揺らめく。
やがて、明かりが消える。
それからだ。
「油は冷めたか」とささやく声がして、生臭いいわし油を舐めに化け猫が現れる。

つい、200年前までの世界だ。
我々は、多くのものを得てきたが、また、一方で多くのものを失った。
もっとも大きなものは、想像力だろう。
それとやさしさ。また、愛。


願はくは花の下にて春死なむその如月の望月のころ(77)[続古今1527]
【通釈】願わくば、桜の花の咲く下で、春に死のう。釈迦入滅のその時節、二月の満月の頃に。


今の我々とどちらが豊かな精神を持っていたか。
タイトルの『暗くなったから明かりを消して』というのは、いつまでも明かりをつけていると化け猫がやってくる。さあ、暗くなったので、明かりを消してもう寝ましょう、ということだ。