『買った方が安い』


こんばんは。
今夜は釣りの話ですねん。
いいですね、フィッシングですか。
お前と話すと、なんか、話がずれるな。なんや、そのフィッシングって。
フィッシングイコール釣りです。それが何か?
あのなあ、キャッチアンドリリース、湖でブラックバス釣るのとはちがうで。こっちは、今夜の晩飯がかかってるんや。鍋に水1、しょうゆ1、みりん0.5と砂糖を大さじ1杯入れる。
ずいぶん細かいな。それで、もしも釣れなかったら?
おーい、水槽から金魚もってこい。やかましいわい。それから釣りに行くんじゃ。
背水の陣ですか。
は、背水の陣って、おまえ、古いなあ。
ちがいますか。
ちがわんわい。背中から「父ちゃん、魚食いたい」と子どもの声がする。「あんた待ってるからね」と女房がいう。
いいなあ、いじましい庶民の生活。
庶民って、じゃ、おまえはなんじゃ。
も少し上等の庶民。
アホ。庶民に上も下もあるか。
じゃ、聞きますけど、庶民の反対語はなんでしょう。
そら、・・上流・・階級・・
ほら、みろ。
ちょっと待て。おまえのは詭弁や。上流階級に対して庶民がおるんや。その庶民をまた、上、下と分けてどうするんや。
事実でございます。
ほな、その上等の庶民ゆうのは、どこがどうちがうねん。
魚屋さんに行きます。
ほう、それで。
ちょっと、魚屋の兄ちゃん、その鯛、三枚におろしてよ。それ、それ。今こっちへ泳いでくる奴。バシッと〆てね。皮を引きましょうか、って。ええ、お願い。あ、皮は捨てないでね。この皮がうまいんだから。いくら?2500円。あら、安いわねえ。
2500円って、安いか。
それじゃ、聞きましょ。釣りに行くといくらかかりますか。
えーと。エサが300円、コマセに500円、暑いと氷もいるよって、200円、お茶が150円やろ、そんなとこかな。
釣りには車で行くんでしょ。何分かかります?
30分くらいかな。
片道1リットルのガソリンを使って往復2リットルですな。150円かける2は300円です。それで、釣りをしている時間は、どれくらいです?
そやなあ、平均して5時間くらいか。
あなたが働いたとして、時間給はいくらですか?
1000円、・・・おい、誘導尋問やんか。
事実でございます。
そ、そやけどな、釣りするゆうんは、金に換えられんもんがあるで。どこまでも青い海、輝く雲に青い空、人生のリフレッシュや。
それは、あんたの個人的なことでしょ。家で待ってる子どもや嫁さんのリフレッシュは考えたことがありますか。
どこまでも嫌味なやっちゃな。おう、わかった、事実でございますっていうんだろ。
事実も何も、現実でしょ。あなたはその現実から目をそらしている、簡単に言うとそういうことです。
じゃ、なにか。おまえは、魚釣りは止めて、魚は買って食え、と言うんやな。
それが、経済的、合理的だと言ってるんです。
そいじゃ、聞くがな。おまえんとこの、正男君と良子ちゃんは魚好きか?
魚が好きかと言われれば、そうだな、どっちかというと、肉だろうな。
そら、みてみい。
なんですか、その鬼の首を取ったような眼は。
あんなあ。おまえみたいなのがいっぱい増えて、海がダメになったんや。いいか、海は漁師さんだけのもんじゃない、みんなのもんや。わしな、海を大事にするいうんは、海をみんなが利用することだと思うんや。アサリを掘ったり、釣りをしたり、泳いだりしてな。そうして、はじめて海の存在がわかる。
海の存在ですか?
そうや。わしら、海から生まれたんや。そやから、誰しも、体の深いところに海をもっとるんや。ところがいつの間にかそのことを忘れて生きとる。いいか、その日釣れたのがハゼ一匹でもいいんや。それを持ち帰って家族みんなで大事に食う。大事なんはここや。ハゼを通して海を感じる。おかげさんでな、うちの子どもたち魚が大好きや。どや。
どやって、ずいぶん鼻息荒いな。反論したいけど時間がない。この続きは今度あらためてということにしようか。
おう、なんぼでも反論考えてきいや。釣りしながら待っとるわい。