田舎の現実


近所に「こまんかおじさん」という人がいる。左官屋さんだ。
「こまんか」というのは、小さいの意。初めてあったとき、自分からそういって自己紹介した。
不景気の波がじわじわ押し寄せてきて、もう何年も本業である左官の仕事がない。去年の今頃、彼は九州新幹線の建設工事で働いた。お盆までだった。その前の年の今頃は、道路の舗装工事の現場で働いた。どちらも過酷な仕事だ。
「水なんかいくら飲んでもまにあわん。いつも塩ばもっとるとよ。そいで、くらっくらっときたら塩ばなめる。そうすると、またしばらくはシャンとする」
町の健康診断で、血圧210といわれた。
「あんた、どうもなかとね」
医者が驚いて尋ねた。「生きとるのが不思議だ」と。
今年の冬、目がおかしいというので目医者にかかった。右目は進行中の緑内障、左は白内障が進みつつある。視力は0.1と0.5だった。色つきメガネを作った。
「あんた、雨の日と夜は、車の運転しなさんな。それから、遠出もしなさんな。とくに、トンネルに入ったら駄目だよ。めくら運転と同じだから」
医者に念を押された。
こまんかおじさんは、じいさんとばあさんとの三人暮らしだ。80歳と85歳の夫婦がもらう年金が二人合わせて、月に約6万円、介護保険料を引かれると月に5万円ちょっとだ。
家の近くに畑はある。田んぼも作っている。
しかし、田舎であっても、電話代はかかる。ガスも、水道も、電気も。それに国保が大きい。さらに、住民税、固定資産税と、すべてが現金の世界だ。月々の支払いは5万円をゆうに超える。

 ・・・・最近、こまんかおじさんの顔が歪んできた。