夏の終わり

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ヒガンバナ

暑さもとりあえず終わった。今日は曇りではあるが、室温は23℃のまま上がらない。明日の朝は、19℃まで下がる予報。

 

今日、久しぶりに海へ行った。

海辺を歩いて、流れ着いた流木の中から2m位の板を三枚、持ち帰った。これでネコたちの、これから寒くなるのに備えて寝場所でも作ろうかと思う。

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天草の東海岸新和町

これも以前に書いた話。

 

 

   サバイバル・キャンプ

 

 このごろ都会ではサバイバルキャンプが流行っているようだ。最低限の食料と水で一週間を過ごす。大人の付き添いは付くが、食材の大部分は現地で調達し、焚き火で飯を炊き、テントで寝る。電気もテレビもない。もちろん、スマホもゲーム機も置いていかねばならない。

 

 夏休みに入ってすぐに、息子の嫁から電話があった。

「お父さん、ユウタのサバンプ(サバイバルキャンプのこと)、よろしくお願いします。もう、ずっと前からおじいちゃんとサバンプに行くんだと、ユウタは楽しみにしてますから」

 

 こうして夏休みに入ったと同時に息子たち家族がやってきた。

 キャンプの場所は決めていた。港から一番近い無人島だ。近いといっても手漕ぎの船で一時間はかかる。島は、歩いて一時間で一周できる。昔はこんな島にも畑を作っていて、今は草ぼうぼうだが平地になっているのでテントを張るには格好の場所となっている。

 キャンプに行くのは、息子夫婦とその子どものユウタとモモコ、わしをいれた総勢5名だ。ばあさんは非常時の連絡係として、家に残ってもらうことにする。

 荷物は、テント一張り、蚊帳一張り、米10キロ、味噌1キロ、水が20リットルのポリタンクに4つ、釣り道具と、あとは鍋、釜、ヤカンの類だ。予定ではこれで一週間を過ごす。ユウタもモモコも大張りきりで支度を手伝った。

 で、どうせなら、動力船で島に行かずに、イカダで渡ったらどうかと話しが出た。そのほうが、ロビンソン・クルーソーや15少年漂流記の気分に近づけるんじゃないかな、と。

 正直、わしは不安を覚えた。

 息子家族は、正月にも来ていて、それはそれは大変だったのだ。

 こんなふうだった。

 

「都会から息子が帰ってきたぞぉ

嫁さんも孫も連れてな

孫は小学4年のユウタと1年生のモモコだ

やっぱり都会の子どもは目がちがうな

いつもクルクルキョロキョロしていてな

なんかおもしろいもんはないかと捜してる

そのユウタが薪割りしているわしのそばにきてな

やらせてくれ、という

男の子だったら薪の一つや二つ割ってもいい年頃だ

割りやすそうな木を選んで斧を渡した

するとどうだ

ユウタが振り下ろした斧は薪には当たらず

ユウタの足にぐさりだ

血がばっと噴き出し、そこら中、血の海だ

さすがにわしも青くなって救急車を呼んだ

息子はオロオロするばかりだし、嫁は

「お父さんが斧なんか持たせるからでしょ」とすごい剣幕や

 

聞いたらユウタのやつ、剣道やってたということだ

剣道は構えたとき右利きだったら右足を前に出す

薪割りはちがう

薪を中心にすえて、足は左右に広げる

万が一、斧が薪をはずしても自分の足の上にくることはない

あいつはきっと、剣道で面を打つつもりで斧を振り下ろしたんだ

右足を前に出してな

 

いや、人生、なかなかまっすぐにはいかんもんやな

で、モモコの方だけどな

一風変わった子でな

アマデウス』という映画、観たことあるか

あの映画のモーツァルトのようにな

こっちにはぜんぜん分からんところで突然笑い出す

「アハハハハハハ・・・」

バアさんが作った煮しめサトイモをハシで突き刺して

「アハハハハハハ」や

それからモモコのやつ

障子登りを覚えてな

障子を登って天井にばっと手を着く

うまくできたらそこで「アハハハハハ」だ

正月の寒い中、家中の障子は桟ごとボロボロ

猫も目丸くして見とったくらいだ

 

いやあ、正月の四日、息子一家が帰ったときには

正直、ほっとした

ユウタは足を引きずりながら

モモコは「バイバイ、アハハハハハ」いうてな

 

バアさんかい

ああ、もう、三日も寝こんどる」

 

 

   (2)

 そういうわけで、キャンプ前日はイカダ作りから始まった。

 朝、8時、ユウタと息子を連れて山に入った。わしが、大きさを見ながら竹を切る。ユウタと息子が担いで山から下ろす。

 イカダの大きさは、2M×4M。タテ、ヨコ、タテと竹を組むので、切り出す竹の数は45本だ。

 ところで、この時季、山には蚊がいる。それも半端な数じゃない。わしは、長袖のシャツと長ズボンに長靴、頭から手ぬぐいをかぶっていた。わしの格好を見て、嫁のマチコは笑った。

「アハハハハ、お父さん、それはあんまりでしょ。アハハハハ」

 結局、ユウタは半ズボンとTシャツできた。わしの息子は自分だけ長袖を着とったけど。

 情けないやつだ。この場合、自分が正しいのだから、堂々と嫁さんに言うべきじゃないか。都会育ちのマチコさんの思い込みを正すためにも、いいや、ユウタの身を守るためにだ。

 その夜、ユウタは熱を出した。無理もない。ユウタの手も足も、赤い風船のようにはれていた。

 出発を延ばそうとわしが言った。これに対して、ユウタが反対した、布団の中から。

「行く。明日行く」

 わしがためらっていると、マチコが言った。

「行きましょ。家で寝るのも島で寝るのもおんなじでしょ」

 決断力があるというのか、豪胆というのか、雑ぱくというのか、息子とは正反対だ。

「なるほど、そりゃそうだ」

 バカ息子がすぐ同意した。わしゃ、知らん。

 

 翌日、ユウタの腫れはすっかり引いていた。ばあさんがつけた馬の油が効いたのかも知れない。馬の油は、やけどの薬だが。

 朝7時、わしらは蝉しぐれの中を出発した。

 

この後がどうなったか。そりゃもう、みなさんの想像にまかせます。