満月

昨晩は、苓北で観月会。写真は苓北へ行く途中の五和町から見た島原・長崎方面。
月見は期待できそうにもない。雨が降らないだけ、良しとしよう。
苓北では、やはり台風の話がまず話題となった。漁師のタジマさんをはじめ、農家の哲ちゃんやケンちゃん、ミッちゃんなど台風の影響をもろに受ける。台風に関しては、だれよりも気を配る。

「米軍の予想では、鹿児島をかすめて太平洋に抜けるコースだけど、気象庁はもっと北寄りのコースの予報になっている」とタジマさん。
「でも、台風が鹿児島をかすめて太平洋に抜けたとして、そのあとはまた、東北や北海道へ向かうんじゃないか。自分のところだけ助かればいいというもんじゃないだろ」と、ケンちゃん。
「沖縄の問題ともかぶってくるなぁ」と野口さんが言う。


とぎやとぎ(詩集『見えないところで』より)


なぁ ばぁちゃん
うちの包丁は
なんで あんなに切れるのかなぁ
大根は さっくり
人参も さっくり
白菜は ざっくり

それはな とぎやとぎさんのおかげだよ
月の夜に
包丁を出しておくとな
朝にはそれはもうきれいにといで 置いてある

ふーん 
でも とぎやとぎさんって どんな人かなぁ
ばぁちゃんは見たこと あると
いんや ばぁちゃんも見たことはない
なんせ 夜なべ仕事のお針子さんが眠るころ
まぁだ 早起き鳥も床の中
お月さまからスルスルと銀の糸が降りてきて
とぎやとぎさんがやってくるんだと

だったら みんな みんな
月の夜に包丁だしとけばいいのに
舞ちゃんちのお母さん
包丁が切れないといっていたのに

きっと舞ちゃんのお母さんは
とぎやとぎさんのことを知らないんだろうね
毎日が忙しすぎると
お月さんなんか めったに見ないもんだよ


その夜 月は煌々と輝いていました
物干し竿が 縁側にくっきりした影を落としています
鳴きつかれたコオロギも夢の中です
お月さまにポツンと黒い点が現われ
見る間に大きくなります
銀色の糸が まっすぐに光っています
やがて 耳をすますと
どこからともなく コシ、コシという音が聞こえます
コシ、コシ、コシ
また しばらくして コシ、コシ、コシ
おばあさんは そっと庭へ回りました
とぎやとぎさんが一心に包丁をといでいます
どこか 懐かしいシルエットです
おばあさんの胸の奥がキュンと鳴りました
あぁ、じいちゃん
とぎやとぎさんが月明かりの中 顔を上げました
それから 恥ずかしそうに微笑みました
あんただったのだね
ずっと、ずっと 見守ってくれていたんだね
・・・ありがとう
今度の月の夜には
あんたの好物のだんごとお茶を用意しとくから
また、月の夜に会えるかな
じいさんは優しく笑って
それから 静かに 片手を挙げました
手の中には銀の糸
ばあさんが涙を拭く間にも
じいさんは黒い点となって 月の中です


とぎやとぎのお話です